毒蛾が舞う
「毒蛾」は単なる「蛾」でしかない。しかも毒を持っている。
最初は「蝶」のような姿でひらひら近づいてくる。もともと体力があるから過酷な場所にもやってくる。接触するとしばらくはトリコになってしまう。毒が魅力的に見せてしまうのだ。またそれなりの舞い方もするのだ。体の80%を毒に犯された頃に人は気づく。「これは蝶ではない」「単なる蛾だ」「蛾だから我も強すぎる」「近づかない方がいい」「できれば抹殺した方がいい」人には免疫力があった。毒を除去した人が毒蛾を無視する。正体がばれた毒蛾はまた新たな場所に移動して蝶のように舞う。毒を注入する人を誘惑するために。
毒蛾はその肉体自体が蛾だから蝶にはなれない。毒を人に注入して魅力的に見せようとするが、人の免疫力で結局それも叶わない。毒蛾の生きる場所は、都会なら汚泥の溜まり場か、大敵の蜘蛛が糸を張る建物、田舎なら熊やイノシシが縄張る山奥、決してお花畑ではない。
万が一、自分は蛾だと認識しても、我が強すぎてそれを揉み消してしまう。結局一生、蝶にはなれない。もちろん標本にもなれない。